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海洋冒険小説の家

海洋冒険小説の家

(3)両チームは休憩のため・・

     (3)

 助左衛門は涼しい林の木陰で馬をおり柵につないで、草のうえに大の字になった。チームメイトの大部分が同じように倒れこんだ。
 「きょうはしんどい相手やなぁ」
 大二郎が言い、秀五郎も、
 「ほんまやで、そやけどあのなんとかの少将という若い奴はすごいやっちゃなぁ。力があふれてるようや」
 「乗ってる馬、栗毛の綺麗な馬。あれ南蛮から買(こ)うた種馬からでけた馬ちゃうか。馬体もおおきく走るんも早い」
 「と、ゆうことは、わしらの馬と同じゆうことやな」
 助左衛門が言った。この堺の商人チームの馬は、天竺(インド)からもたらされた種馬から産まれたものなのだ。もう、何年も前に南海丸で二頭、大事に運んできた。大和の国の高田の牧場でその二頭の子が数十頭育てられた。今も、多くの子馬が産まれている。
 助左衛門は葦毛が好きで、高田には何頭も育ててあった。もちろん今日も葦毛の愛馬である。他のメンバーのも同じ牧場で育てている。打毬の競技で実力がアップしたのも馬の力に預かるところ大なのかもしれない。
 
 法螺貝が休憩の終わりを告げた。

 「次は陣形六でいくで。三ー一ー六や。ちょっとしんどいかもしれんが、先手に六騎で攻め込み、ここぞという時はあと一騎をつぎ込んで七騎でがむしゃらに押す。これは、ひょっとしてうまくいくかもしれん。わしらは後ろで守ってるからな。ええか?」
 助左衛門が言い、みんなはうなずいて、立ち上がった。
 これが、うまく当り、最初の早い段階で二点を取った。しかし、やはり守りが三騎だけでは手薄で、あの少将殿に瞬く間に二点を取り返されてしまった。それで急遽、先手陣から二騎守りに移したが、時すでに遅く、またあの少将に三点目を入れられてしまい、第二戦は公家方の勝ちとなった、
 西側応援席の喜びぶりのおおげさなこと、船で京から川を下り堺にやってきたやんごとなき公家の女房方も、日頃の上品ぶりはどこかに置き忘れたのではないかと思えるほどだ。雅楽の音(ね)に、舞がひとさし、ふたさし舞われ、毬技場の全員から、その美しさに拍手が送られた。
 
 このようにして、熱戦が続き、一、三戦は商人チーム、二、四戦は公家チームが取り、ファイナルの第五戦で決着がつけられることになった。
 どちらのチームも、汗だくでかなり疲労してはいたが、気持ちはハイになっていて、気力があふれていた。
 助左衛門は最後は奥の手でゆこうと考えていた。それで、充分にミーティングしてそれぞれの役割分担を決めた。
 それにしても「この天鵞絨(びろーど)の南蛮服は暑いな」と悔やんだが「まあ、仕方ないか」とすぐ気持ちを切り替えた。
 審判長の黄色の旗が振り下ろされ、いよいよ決戦が始まった。毬子が投げ込まれ、毬子の取り合いでまず商人方が取った。助左衛門のいる先手陣に毬子が回され、あちこちにパスされ秀五郎のところへきて、おもいっきり毬杖でたたいたが、敵守備陣に阻まれた。人馬一体で阻止したのである。毬子は馬の腹に当たった。こうして、シュートの応酬があり、毬技場からもおおきな溜め息やら歓声が繰り返された。
                  (続く)



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